17 May 2009

The Text of Modern HENRER -verse 3-

null


















「ヘンラー通信 extended remix」
あきもとキンぢ



「ヘンラー通信extended remix」は、2005年8~9月にかけて四国を遍路した際の路上生活旅の記録を、友人知人に向けて一方的に送りつけたケータイメール版オレ専用スパム媒体「ヘンラー通信」を改変したリミックスヴァージョンです。



真実は路上にある。
路上とは宇宙である。
by オレ


__________________

verse 3

 人類の祖先が類人猿から枝分かれして600万年。この頃、すでに彼らは直立二足歩行をはじめていた。人類の歴史は二足歩行とともにあるのだ。人間の最も原初的な機能である歩くという行為には、つまりこれだけの歴史が詰まっているわけだ。

 数十キロの距離を徒歩だけで移動するなど現代の暮らしの中ではとても考えられないことだけれど、毎日続けていくことで、おそらく脚にプリインストールされている600万年分の遺伝情報が活性化するのだろう。クルマにたとえるなら“ならし運転”終了までに、1週間とかからない。

 30~35キロ。毎日歩くという前提なら、1日の歩行距離はこのぐらいがベストだ。コレ以上だと疲労が残り、翌日に響く。徒歩の旅を続けていると、ただでさえ足はむくんでひとまわり大きくなり、靴の中で当たる。そのまま無理を続けると厄介だ。当たる部分にマメや血マメができたり、ムレて皮がベロンとむけたりする。そうなると歩行は困難になる。

 マメの上にさらにマメができ、痛みをこらえながら壮絶な顔で歩いているヘンロは多い。彼らは見るからに辛そうに、金剛杖を文字どおり杖にしながら、『スターウォーズ』のC-3POみたいにヒョコヒョコ歩くので、遠くからでもすぐわかる。

 ホリもそんなひとりだった。30代前半で肥満気味の彼は、東京で中華料理のコックをしているという。四国へは長期の休暇をとって来ていた。ホリと会ったのは徳島市街。互いにまだ歩きはじめてまもないときだったが、彼の足はすでに瀕死の状態だった。地図を見せてやると、「あそこのうどん屋、歩きヘンロは半額っすよ」と教えてくれる。デブだけに、喰い物情報に関しては鋭敏なアンテナを張り巡らせているようだ。

 四国には、オセッタイとして通常の半額など格安で飯を喰わせてくれるうどん屋や定食屋が結構ある。バスやクルマでまわる88ヶ寺めぐりの観光ヘンロにはなく、バックパッキングの歩きヘンロ限定のサービスだ。ちゃんと差別化してくれてるのが嬉しいってもんだ。

 どこの寺にも必ず、汚れていないキレイな白衣(びゃくえ)に輪袈裟(わげさ)、金剛杖、菅笠(すげがさ)スタイルのステレオタイプなヘンロが群れをなしている。オッチャン、オバチャンの観光ヘンロだ。彼らは観光バスで移動し、寺だけを巡る。だがオレが思うに、ヘンロの真髄は自分の力だけで移動するというエクストリームな旅の中にこそあるのであって、寺を参ること自体に意味はない。

 とはいえヘンロというのは一大観光産業だし、観光産業あっての四国88ヶ寺だ。毎年数十万人が訪れて金を落としていくんだから、彼らの存在は何よりもありがたいだろう。それに彼らのほうがオレらなんかより、はるかに宗教心も強いしね。「巡礼」という意味では、オッチャン、オバチャンたちのほうがよっぽど現代版ヘンロに相応しいかもしれない。

 だからオレは自分を「ヘンラー」と名乗ることにした。ヘンロの歴史とか背景とかよく知らないし、空海こと弘法大師が何をやった人なのかもよくわからんし、宗教心ないし。つーかそんなん全部どうでもいいし、もっと軽~い感じでいきたいし、そもそもヒッピーでアシッドなレイヴ感覚で四国まで来ちゃってるわけだし。オレを「おヘンロさん」なんて、頼むから呼ばないでくれ。いいかい、ヘンラーは観光バスなんか乗らないんだよ。

 すでに白衣は着ていない。ペラペラの白い綿に「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と筆文字フォントでプリントされた安っぽいデザインは置いておくとしても、白衣には機能性がまったくない。吸水性が高い一方で発散性は著しく低いので、いつまでも吸った汗が乾かないのだ。これでは気化熱に体力を奪われてしまうため、かえって着ないほうがいい。ヘンログッズの中で最も無駄なアイテムだ。

 金剛杖はどこかに置き忘れてきた。これは山道を歩くときに便利だが、棒切れなど山に行けばいくらでも落ちている。首にかける輪袈裟は、寺を参るときの正装にあたる参拝グッズ。信仰に “正しい装い”とか関係ないだろと、信仰心など1ナノグラムもないクセに思ったりもしたが、境内に入ったときは首からブラ下げてみた。雰囲気、雰囲気。菅笠は日除け、雨避けにはなるが、頭よりバックパックにかぶせたほうがカッコいい。

 







こうしてオレはヘンラーになった。


___________


NEXT・・・・・



Comments

No comments yet

Add Comment